（私は、動きが止まってしまった。）
「しかし、つきあって半年、ようやくなんだぜ。半年。でもな、俺…。」
───でも、何よ！
（ちょっと、かんしゃくを起こした私。）
───そんなこと、私に、言うことないじゃない！…そんなこと、私…。
（私は、泣き声になりかかっていた。）
「悪い。わかってた。いくら高谷でも、そんなこと聞かせるのは悪いと思ってた。でもな、今、俺、自分のことが、わかんなくなってるんだ。高谷にでも聞かなきゃだめなんだよ。」
───…どういうこと？
「…高谷は、恋の形っていくつくらいあると思う？」
───それは…。
「高谷の思ってることが、聞きたいんだ。」
───そりゃ、いくつも、あるわよ。自分を好きになってくれる人をそのまま受け入れる。自分の好きな人を何としても奪い取る。あと…
「…あと、？」
───あと、相手がいる人を好きになってしまって、その人を遠くから見て想い続ける…。
「うん、…。」
───それが？
「いや、俺たちってさ、何とはなしに付き合いはじめた、そういう感じじゃない。」
───あぁ、そういうのもあるよね。
「でも、その後が…何というか、目的が無いんだな、俺たちの付き合いには。ほんとに、どうしようもなく相手のことを好きなわけじゃないのに…なんて、最近思いはじめて。」
───ふう、ん…。
「少し、高谷とのことも、考えた。恋人として付き合ってるわけじゃないのに、すごく恋人よりも話しやすくて、近づきやすくて…。」
───ん…。
（何だか、自分のことを言われると、答え方がわからなくなった。だって、私は、さとるくんが…）
「だから、自分の想いを確かめるために、あいつとキスしたんだ。半ば、無理やりだったけど…。」
───宮さんは、なんて？
「あまり抵抗はしなかった。でも、その後の反応は、良くもならず、悪くもならず…。」
───じゃ、別にキスの功罪はなかったのね。
「それが、俺には気に入らなかったんだ。現状を、マイナスであれプラスであれ、変えたかったんだ。でも、あいつはそれをわかってくれない…。」
───言えば、いいじゃない。どう思ってるか聞きたいって…と、言いたいところなんだけど、そうもいかないよね。
「あぁ。」
───でも、そうまでして、付き合っていく必要があるの？
「別れる理由が無いからな…。」
───別れる…いや、どっちにしろ、理由を考えるべきよね、恋を続ける理由、または恋を終わらせる理由、そのどちらかを。
「そうか。」
───あ、もう…こんな時間だ…。どうしよう…。
「悪い。ほんとに、悪かった。」
───うん、いいよ。しょうがないわ。じゃ…、ね。
いきおいで、さとるくんのことが好きだって、言ってしまえばよかったのかもしれない。でも、そういう「ぶち壊し」型の「恋の始まり」は、私にはできなかった。結局、いつものようにさとるくんの身の上相談で終わってしまった。
ただ、この時以来、さとるくんとは会っていない。もちろん、相談も受けなくなった。
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