わたしは、ある日彼と帰り道が一緒になりました。
彼はわたしを見つけると、近くによって来て軽くあいさつしました。
わたしも、少しうなずいてあいさつしました。
そうして二人で、何かとりとめのない話をしながら、ゆっくり歩いて家に向かいました。…はたから見るとたぶん、恋人同士のように見えたかもしれませんが、これがわたしたちにとっては、ごく自然のことだったのです。いえ、わたしたちにとって、と言うよりは、わたしにとって、と言った方が正しいのかもしれませんが…。
わたしにとって彼は、恋人としての彼ではありません。かといって、友達というわけでもありません。友達以上の友達。あえて位置づけすれば、友達と恋人との間、といったところでしょうか。なぜそんなことを言うのかというと、わたしはあまり男子と話したことがないからなんです。男性恐怖症というほどやっかいなものじゃないんですけど、どちらかというと女子との話の方が盛り上がったので、あまり男子と話す機会がなかった、と言った方が正しいのかもしれません。だから、男子という存在と恋人という存在とを結び付けるという感覚が、あまりなかったのです。
ただ、そうした女子との話の中でも、やはり「恋人」といった類の話をかいま見ることはできました。実際わたしの周りでは、すでに恋人がいるって人が結構いましたから。そういう話を聞くまでは、わたし自身にとって恋人とはどういうものかわからず、うまく付き合っている人のことを聞くたびにロマンチックでいいもんなんだなって思ったり、別れてしまった人のことを聞いてなんて残酷なものなんだろうって思ったり、結局自分として、恋あるいは恋人ってどういうものなのか、っていう考えを確立させてはいませんでした。
そんな迷いの中で出会ったのが、今の彼だったんです。