わたしは、彼を恋人と思うことが、正しいのかどうかわからなかったんです。いや、もしかしたらわたし自身、彼を「恋人」にしたくなかったっていう気持ちがあったのかもしれません。わたしが彼の恋人になるのはもったいないと思ったのか、恋人にまでランクアップさせた位置づけをしてしまうと別れたときに辛いと思ったのか、それとも彼には別の彼女がいてもおかしくないというかんぐった考えを持っていたからなのか…そのへんはあまりよくわかりませんが。
もちろん、彼と一緒にいる時は、そんなことは一切考えていませんでした。こんなに男子と話すことが楽しかったのかって思いました。そして、いつまでも一緒にいたい、さらには、いつまでも「このままの」関係でいたいと思っていたのです。
ところが、卒業式の近づいていたある日、そうした自分の思いの一角が崩れたのです。
彼が、わたしに「好きだ」って言ってきたのです。
この時、再びいろんな思いが頭の中を駆けめぐりました。いったい、「あえて」好きだと言ってきたのは、どうしてなんだろう…って。「恋人同然」の付き合いをしていたわたしたちの関係をはっきりとさせたかったのかもしれません。また、わたしにとっては「彼は恋人です」とだれにも言う必要はなかったけれど、彼にとっては、友達や家族なんかに、わたしのことを「恋人なんだ」ってはっきり言う必要があったのかもしれません。たとえそういう必要がなくても、彼自身でしっかりと納得したい所があったのかもしれません。ただ、そうだとしたら、わたしはそういう「はっきりさせたい」っていう彼の気持ちがきっとわからなかったでしょう。わたしは、このようなボンヤリとした関係に、ずっとひたっていたかったのだから…。
…考え込んでしまったわたしと、答えを待つ彼との間には、ボンヤリとした時間が流れていました。しばらくして、彼が言葉を発しました。
「ごめん…。考え込ませちゃった？」
そう言われて、考え込んだのは確かだけど、何と言ったらいいのかわからなかったので…というよりは、「うん」って言うのも何だかきついものがあると思って、わたしは「う〜ん…」とだけ言いました。
わたしは、言葉を選んで話すほうです。なんとなく、少しも考えずにすぐに話してしまうと、ボロが出てしまいそうでイヤだからです。実際、今までそういうボロを出したことが何度かあります。大したボロじゃないんだけど、何だか自分のことを「無口じゃないんだ」って誇示しようとするたびに、ボロが出るような気がして仕方なかったのです。
そのため普段はよく考えてから話すので、言葉かずも少ないし、たまにはめぐりめぐった考えが、口に出す前に自分の中に収まってしまうので、何も言わずに終わってしまうこともあります。そのせいで、どちらかというと無口な女の子だと思われてたみたいです。
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