彼───さとるくんと呼ぶ───は、私が高校２年のとき（当然彼も同じ学年だが）生徒会の選挙に立候補しようとしていた。もちろん会長候補に。私をはじめ、周りの人たちは皆、彼すなわちさとるくんが当選するだろうと思っていた。対立候補は一応、いたのだが。
さとるくんは、「サラッ」としている。性格はさっぱりしてて、語り口もさわやかさらに容姿全体で「サラッ」とした雰囲気を醸しだしている。そういう人ってやっぱり話しやすいもので、女の子の間でも、話しかけやすい人と、もっぱらの評判だ。彼の方からも、いろんな人に話しかけるから、友達も多いみたい。
ただ、私としては、少し近づきがたい人だった。私は一年のときに、いきなり学級委員になってしまい、その委員会で私は彼を知った。はじめの印象はもちろん他の女の子と一緒だった。けど、その時の委員会の始まりが遅くて、他の男の子たちとは話をせずに、私に話しかけてきた。
───こんちは。
「あ、こんにちは…。」
───あんたも、学級委員だよね。
「うん…、もちろん。」
───どこのクラス？…俺は一組なんだけど。
「二組だけど。」
───ふうん…。
「めずらしいね。」
───…何が？
「見知らぬ女の子にいきなり話しかけるなんて…。」
───あ、あ。そういう人、あんまり周りにいなかったの、今までに？
「うん…、まあ…。」
───ふうん。でもさ、例えばそういう風になりかけたんだけど、女の子のほうが無意識のうちに避けてるっていうこともあるんだよね、たまに。そういう人に限って、ほんとは声をかけてもらいたがってたりしてね。
「…。」
───あ、ごめん、気にさわった…？
「別に…。私が気にさわろうとさわるまいと、あなたには関係ないでしょ。」
───はは、やっぱり怒らせちゃったかな。
「だから…、もう…。」
はじめは少し好感が持てたけど、だんだんとなれなれしい口調に聞こえてきて、なんとなく腹立たしくなってきた。いったいこいつは私のことを、誰とでもそれなりのスタンスでつきあうような、あるいは「自分を好きになることなどまずない」と思ってる女の子だとでも思ってんのかしら…と。そういうことがあったから、私は彼に対する「校内好感度ナンバーワン」という評価には少々疑問を抱いていたのだ。