「たまえっ。」
───あ、美奈子。
「すごい、すごい。立候補、したんだね。」
───う、ん。なんかね。クラスが結構、そういうのに乗り気な雰囲気だったんだ。一度はやってみたかったっていう気持ちも、少しあったし。
「ふうん…。でもなあ。すごいなあ。」
───そんなに、すごいすごいなんて…言うほどじゃないよ。書記だもん。対抗馬もいないし。
「そうかもしれないけどさぁ…でも、すごいや。うん。」
───対抗馬って言えば、あの、会長の候補者。中田くんに対抗する人が、出たよね。半ば無謀だと思うんだけど…。
（中田くんとは、つまりさとるくんのことだ。）
「二人も。結構、びっくり。…まあ、とりあえずたまえは自分の心配、だね。」
───そっかな、やっぱり。
「うん。…なんて言ったらいいのかわかんないけど、がんばってね。」
───うん、がんばるよ。
さて、幸いなことに、宮さんもたまえも、そしてもちろんさとるくんも、皆当選した。
当然ながら、生徒会内でも、さとるくんと宮さんとの仲は知られていた。頭のきれる二人は、生徒会での中ではそれなりにけじめをつけていたが、やはり節々に仲の良さが見受けられたらしい。────あ、このへんの生徒会内のことは、たまえから聞いたことも入っているのでそのつもりで。────でも、そんな状況とは裏腹に、私はさとるくんに会うという目的で生徒会室に通うようになった。はじめは、たまえを迎えにいくという目的で生徒会室に行っていたのだが、やがてそれは口実になり下がってしまった。そして、もともとあった面識のおかげでさとるくんとちょっとした話もするようになった。しかし、そのちょっとした話っていうのは、実は、私とさとるくんとの間だけで交わされる、特別な話。…単に、他人に話してもしょうがない話、と言ってしまえばそれまでなんだけど、それでも他の人に対する優越感が得られたので少し得した気分だった。